軒先に吊られている茶色や緑の大きな玉。
見かけたことがある方もいるのでは?
これは「杉玉」「酒林」と呼ばれる日本酒に関係した造形物です。
この造形と日本酒はどのような関係をもっているのでしょうか。
杉玉を知り、日本酒をもっと楽しみましょう!
杉玉とは
杉玉 すぎたま・すぎだま
酒林 さかばやし
と呼ばれるこの造形物。
名前のとおり、杉の葉をボール状にしたものです。
杉玉が飾られるのは2月~3月の新酒の時期。
「新酒が完成しました!」という目印なのです。
この頃の杉玉の色は本来の緑色。
季節が過ぎるごとにだんだんと色は変化し、秋頃には枯れて茶色の杉玉となります。
杉玉は茶色、というイメージも強いかもしれませんが季節によって変化していたのです。
緑色の時期は2月~初夏頃、新酒。
薄い緑の時期は初夏~夏頃、夏酒。
茶色の時期は秋~冬頃、ひやおろし。
日本酒も季節によって変化するので、杉玉の色の変化と旬の日本酒の変化。
風情を感じますね。
杉玉の作り方・重さ
杉の葉で作られる杉玉。
杉の葉だけで作られるのではなく、芯の部分は針金。
できあがりの半分くらいの大きさの針金の芯に、杉の葉を差し込み、球状になるように刈りそろえます。
直径は40~50㎝程度のものが多く、重さも10〜20kgと結構な重さです。
昔は杉の葉を束ねただけのもので今のような球状ではありませんでした。
名前も杉玉ではなく、「酒箒(さけぼうき)」や「酒旗(さかばた)」と束を連想させる名前です。
杉玉の由来
杉玉が飾られるようになった由来は諸説ありますが、有力な説といわれているのが、奈良県 大神(おおみわ)神社に由来する説です。
大神神社はお酒の神様を祀る神社。
毎年11月には”酒まつり”がおこなわれています。
これは酒造りの神様と仰がれるご祭神の神徳を称えて、新酒の醸造の安全を祈る祭典です。
この神社の拝殿と祈祷殿には、直径約1.5m・重さ約200㎏もある大杉玉が吊るされています。
毎年酒まつりの前日に青々とした新しいものに取り替えられます。
この祭典後、「しるしの杉玉」が授与されます。
この授与された杉玉には「三輪明神・しるしの杉玉」と書かれた御札が吊るされています。
この大神神社の風習が江戸時代初期頃から全国に広がり、さまざまな場所で見られるようになりました。
本来は三輪山の杉で造られた杉玉を飾っていましたが、いまは各酒蔵で造ったり、業者に依頼したりとさまざまな形になっています。
参考
とんち話で有名な一休さんこと一休宗純禅師に伝わる歌
極楽を いづくのほどと 思ひしに 杉葉立てたる 又六が門
(極楽をどこらあたりだろうかと思っていたが、杉の葉をしるしに立てた酒屋の又六の門であった)
又六という酒屋があり、その酒屋で酩酊すればそこが極楽であるーという歌です。
この歌の中にも杉が登場していますね。
元禄時代に描かれた一休和尚酔臥図には、杉玉を吊るした酒屋前で酔い伏している一休和尚が描かれています。
歌や絵画からも、酒屋の看板がわりに、目印として、杉が使用されていたことが分かります。
日本酒と杉の木の関係
なぜ、杉の木なのでしょうか?
説によると、大神神社がある三輪山には杉が多く自生しており、三輪山の杉は聖なるものとされているため、杉を使用したといわれれいます。
三輪山は神の通り道・拠り所と言われており、その場所に生えている杉の木にも神が宿るといわれていたのです。
その神の宿った杉の葉を束ねて杉玉を造るようになりました。
また、酒造として有名な菊正宗では辛口酒を杉樽で造っています。
他の酒造でも杉樽を使用しているところは多くあります。
杉の木の中で造られた日本酒。
貯蔵もそのまま杉の樽で行われます。
そうすると爽やかな杉の香が日本酒に移り、より一層、日本酒を楽しめます。
杉の木と日本酒は製造の過程でも大切な関係。
杉玉で日本酒の出来を知らせるのも、杉と日本酒の関係を示しているようでおもしろいですね。
このような自然と酒の関係、日本だけでなく海外でも楽しむことができます。
オーストラリアのワイン酒場では、松の枝が目印となっています。
「ホイリゲ」と呼ばれる新酒を出すワイン居酒屋。
この店の門口に松の束が飾ってあったら”新酒あり”の目印。
日本の杉玉が目印のように、オーストラリアでも松の木が目印とは、国を超えておもしろいものを感じますね。
おわりに
杉玉は酒屋のシンボルのようなイメージがありますが、元々は三輪山の祭事に関係していました。
酒の神様に感謝を捧げ、新しい酒の醸造を祈願する 。
そんな願いのこめられた古くから続く風習だったのです。
杉玉造りはとても労力が必要で、飾っていない酒蔵や酒屋も増えてきています。
というのも、杉玉を飾る時期はちょうど新酒の時期。
メインである日本酒製造に手を取られる時期でもあります。
そんな中で飾られている杉玉。
日本のよき文化と歴史を感じさせてくれる飾りです。
筆者は京都や奈良などでよく見かけました。
古き街並みに似合い、マッチしすぎて当たり前の景色の一部となっていましたが、これからはその杉玉をもっと楽しんでいこうと思います。